大判例

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大阪高等裁判所 昭和28年(う)2577号 判決

刑法第九六条の三第二項の規定は「公正ナル価格ヲ害シ又ハ不正ノ利益ヲ得ル目的ヲ以テ談合シタル者」を処罰するというのであるから、(い)「公正ナル価格ヲ害スル目的ヲ以テ」行われた談合及び(ろ)「不正ノ利益ヲ得ル目的ヲ以テ」行われた談合だけを犯罪としているのであつて、あらゆる談合をすべて処罰する趣旨でないことは所論の指摘する通りである。競争入札は二人以上の入札希望者が各自の特殊の個人的経済的事情(例えば、地理的関係、資金関係、資材の手持、入手関係、労務者関係等)の下にその自由意思による競争によつて入札し、入札施行者に最も有利な条件を提供する者を見出す方策であるから、競争入札の希望者が予め気脈を通じ、そのうちある特定の入札希望者を契約者(落札者)とするため他の者が一定の価格以下に入札しないことを協定談合すれば入札における自由競争の実を失うに至るのであるが、入札競争はもともと、入札施行者のために利益ある価格を発見することを目的とするもので、自由競争はその手段にすぎないから、入札希望者がたとえ、談合をしたとしても、又更にその上に、談合金の授受をしたとしても、入札施行の結果入札施行者の利益に照し、自由な競争をしたと同一の結果に帰着する場合は犯罪としないのである。それゆえに同条にいわゆる「公正ナル価格」とは自由且つ公正な競争によつて形成せらるべき落札価格を意味し「公正ナル価格ヲ害スル目的ヲ以テ」談合するとは、公正な価格よりも入札施行者に対し不利益な価格を形成させる目的、少くとも認識をもつて談合を行うことを指称するものと解すべく「不正ノ利益」とは入札上公正な価格を害することによつて取得される利益をいうものと理解すべきである。ところで、当該談合が談合金の授受を目的としたとか、現実に談合金の授受が行われたということだけの理由により、その他の立証を要せず直ちに公正な価格が害せられたと推認することの許されないことは所論の通りであるけれども、被告人に公正な価格を害する目的があつたと認定するためには、談合により形成せられる価格が公正な価格よりも入札施行者に対し不利益な額であるという認識があれば足るのであるから、所論のように必ずしも公正な価格の数額及び各入札希望者の入札予定価格まで算出確定し判示することを必要とするものではなく、証拠説示においても、必ずしもこれを明認せしめる必要があるものではない。又本件入札談合の罪のような必要的共犯の成立には単に行為の共同を必要とするにすぎなく、必ずしも協力者全部において有責なることを要するものではないから、談合なる共同の基本的行為があれば、公正な価格を害する目的がある者について犯罪が成立し、この目的認識を欠如する者についてのみ、その罪責を問い得ないに止まるのである。それゆえに談合者間に公正な価格を害することの共同認識を必要とするとの所論は首肯し難い。ところで、談合により形成せられる価格が公正な価格よりも入札施行者に対し不利益な額であるという認識は、談合金の授受が行われたということだけの理由により推認することの許されないことは既に説明した通りであるけれども、入札施行者は入札に際し、工事の内容等について厳重な条件を定めた設計見積書を交付し、入札希望者はこの設計見積書によつて、各自の個人的経済的事情の上に立つて、工事完成に要する実費を算出し、これに適正な利潤を加算した額で入札するのであるから、落札者(契約者)が多額の談合金をその適正利潤から支出するとすれば、その額の如何によつては、当該請負工事落札の利潤が殆んど皆無ないしは損失を招くことすらあり得る。それゆえに、その談合が競争入札者の採算無視又は不当廉売等無謀な競争から生ずる不利益を防止する目的に出た場合は格別、これら特別の事情のない限り、適正利潤の上にその経営を維持する業者は自己の犠牲において適正利潤から多額の談合金を支出する愚を敢てするものではなく、談合金が多額であればそれだけそれとは別個の財源、すなわち公正な価格を超えた落札による不当な利益から支払われることは通常の事態における談合について否定し得ない事実であると考える。言いかえると競争入札者の採算無視又は不当廉売の防止等適法な目的に出た談合でない限り、談合金として包み紙程度の謝礼を支出する場合は格別、多額の談合金を支出すれば、談合により形成せられる価格が公正な価格よりも入札施行者に対し不利益な額であるという認識があるものと推認されるのである。そして、その談合金の額が公正な価格を害する程度なりや否やは諸般の事情を勘案し、具体的事案に即応して判断決定されることはもとより当然である。

そこで、本件について見るに、判示第一の事実は原判決挙示の証拠によると、被告人は当時義兄にあたる土木請負業島田渡を助けて同人名義の神戸市役所関係工事に対する業務全般を処理していたのであるが、今回の神戸市施行の神戸豊岡線プレミソツクス舗装補修工事は被告人の業態からみて大工事である関係上業者としての実績を得るため、是非共落札し度いと考え、設計見積書に基づいて実費を計算した結果これに普通の利潤を加算しても百八十万円位には入札できる筈であつたが、他にそれよりも低廉な価格で入札するものあるべき万一の場合に具え、談合によることを企て、同工事の指名競争入札者に分配すべき談合金を自ら落札価格(請負金額)の五分ときめた上入札期日の数日前から順次数名の指名入札者に対し、自己に落札させて呉れるよう依頼し、それぞれ自己の入札金額より低額に入札せしめないように、神戸市の予定価格を僅かに下廻る百八十八万円を最低入札価格として告げその承諾を得た結果入札当日予定通り島田渡において落札し、談合金として競争入札者に現金一万円宛分配交付したというのであるから、被告人の談合の目的、市の落札予定価格、被告人の落札金額、談合金の数額からみて、被告人は談合金を捻出するため、自己の実費に相当な利潤を加えたものに更にその談合金額を加算したものを以て落札金額としたものと認められ、事少くとも被告人に関する限り、談合による最低入札価格が公正な価格よりも入札施行者たる神戸市に対し不利益な額であるという認識があつたものと断定せざるを得ないのである。

(中略)

第二点について。

原判決第三の贈賄の事実について、被告人と大中明夫及び鈴木武雄の間に判示の通り現金の授受のあつたことは所論も肯定するところであり、被告人と鈴木武雄との間に個人的な交際のあつたことは証拠上も明認されるけれども、その私的交際の程度が所論のように「極めて親交」とは証拠の上からみて、社会通念に照し被告人の有利に誇張した表現と認めざるを得ないのであつて、当裁判所の首肯し難いところである。ところで、賄賂収受罪と賄賂供与罪は必要的共犯で必ず両立しなければならないけれども、賄賂要求罪と賄賂申込罪は収賄者又は贈賄者の一方的行為のみによつて成立する。賄賂の提供授受が行われたとしても相手方が両者の従来からの私的交際関係上即座に突返す訳にもゆかず機会をみて、返還する意思の下に一時之を預つたにすぎない場合は賄賂収受罪の成立しないのは勿論賄賂供与罪も成立しないけれども、賄賂の供与は常に賄賂の申込を前提とするものであつて、賄賂供与行為の中には当然賄賂の申込を包含するから、賄賂申込罪の成立を認めるを妨げない。本件鈴木武雄関係は正にこの場合に該当する。原審が賄賂の授受がありながら、これを賄賂の申込と認定したのは所論のように不可解とするには当らない。それゆえに、鈴木武雄が原審において無罪になつたからという理由で事実誤認を主張する所論は賛成し難い。そして、判示(二)(三)の現金五千円及び一万円の授受は、たとえ従来からの両者の私的関係を斟酌しても、その金額からみて到底所論のように単に個人的社交の部類に属するものとは考えられない。それゆえにこそ、鈴木武雄は土産購入費として一応受取つた右金員全部を数日後に些少な土産物と共に被告人に返還しているのである。原判決の認定は証拠上も正当である。論旨は理由がない。

しかし、判示(四)の五千円貸与の場合はこれと趣きを異にする。すなわち(二)(三)の場合は被告人から能動的に働きかけたものであるけれども、この場合は鈴木武雄から妻の病気治療費に必要とするという金借の申込に応じ二個月払の約束で貸与したもので、この程度の貸借は両者間の私的関係からみて、職務関係をはなれた単純な社交上の貸与と考えるのが合理的である。それゆえに、この場合に限り、被告人は賄賂性につき犯意を欠き、無罪たるべきものである。この部分の論旨は理由がある。

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